幼稚園の治療教育

 「生活療法」は、子どもの障害のみに着目するのではなく、普通の幼児としてその子の全体像をとらえて、総合的に発達を援助していく教育方法です。

 自閉症児は一般的に発達がアンバランスです。従って、発達がゆっくりしている弱い部分に目をむけてトレーニングで補おうとする傾向があります。その気持ちはよくわかりますが、成果をあげていないことが多いようです。「生活療法」では、同年齢の健常児の発達を基準にしながら一人の子どもをみつめ、気になるところも気にならないところも、得意な部分も落ち込み部分も、すべてに目をむけて、できるだけ円満に発達するように努めています。

 円満な発達のために「体力づくり」「心づくり」「知的開発」を3本の柱としてカリキュラムを組み立てています。この3つの視点からバランスのとれた成長を促し、豊かな人生を送るために必要な生活力が身につくよう援助しているのです。

 また、幼児期の教育には特に子どもと教師の豊かなコミュニケーションが必要です。さらに教師と保護者の信頼関係も重要です。子どもと教師と保護者の三位一体の関係を、私たちは教育の大前提だと考えて大切にしています。

◎自閉症児は、パターンにはまったり何かにこだわることで気持ちの安定をはかっているかのようです。そのこだわりは、ピアノや絵画などさまざまな分野で突出した才能として開花することもありますし、仕事に活かしている方もいらっしゃいます。
 一方で、自分の興味や関心にこだわるだけで成長を促していると、まわりの様子をみながら所作を身につけたりする学習(学ぶ=真似ぶ)が苦手となってしまいます。そこで、教師や親が積極的に関わって、いろいろなことに興味が持てるように導いてあげることもまた必要になってきます。子どもがしたいままにしていると、目先の欲求は満たされるかもしれませんが、一つの活動にのみ限定されてしまいます。それは子どもの生活全般の生活力にはつながりません。腰をすえて長期的な展望で子どもの将来のQOL(Quality of Life ・生活の質)を考えた支援をしていくようにしたいものです。

◎自閉症児は、何をどうやってよいかが分からなくてそれが不安につながることが多いようです。ですから、子どもたちが理解しやすい環境を整備することが大切です。具体的には、わかりやすい単純な教材を提供したり、個々の子どものニーズに応じるとか混乱をしないで学ぶことができるように配慮する等しています。

◎自閉症児は、学んだことを他の場面で応用することが苦手です。ですから、身につけたことを生活の様々な場面で繰り返し用いたり、色々な体験をさせ場数を踏ませておくことが重要になってきます。

 「生活療法」では、幼児期には身辺自立をめざすための初段階指導を重視します。具体的には、以下のような基本的生活技術の習得を目標にしていきます。

1.生活リズムの調整

 「生活療法」の柱である「体力づくり」の1番のねらいは、生活のリズムを調整することです。幼児期の子どもに重要なことは、メリハリのある生活のリズムを身につけることです。睡眠の時間が定まらなかったり、1日中同じ活動をしていたりすると、情緒も不安定になりがちです。

 昼間に十分に体を動かし様々な活動を行うことで、夜ぐっすりと眠れるようになります。活動してお腹が空けば食事もおいしく摂ることができ、好ましい生活パターンが形成されるのです。規則正しい生活によって排泄のリズムも定まってきます。

 全ての活動の基盤となる体力がつき、健康な身体になることを誰もが望んでいます。毎日メリハリのある活動をして、生活のリズムを整えていけば、それだけで情緒が安定してきます。

2.食事

 食事の重要さは言うまでもありませんが、生活の中のアクセントや楽しみとしての役割もあります。また、脳の神経回路を刺激するためにも重要です。食事という領域の中には、箸やスプーンの使用やマナーを身につけたり、偏食をなくすことも含まれます。

 体をたくさん動かしてお腹が空けば、いろいろな食物を食べることができるようになり、スプーンや箸を上手に使おうとする意欲も高まります。子どもが嫌いな食べ物でも、いろいろ工夫して食卓にのせ、味や食感に慣れさせていくことも大切な教育です。

 スプーンや箸を使う技術に関しては、食事の時だけではなく遊びの中にも取り入れていくと習得がはやまります。また、偏食がある場合は、小さく切ったり、好きな物に混ぜたりする他にも、一緒に買い物に行ったり、一緒に料理をしたりする中で、食材への興味を高める工夫も有効です。

3.排泄

生活のリズムが整ってくると、排泄のリズムも定まり、排泄が自立しやすくなってきます。最初は頃合いを見計らってトイレに連れていくことが必要ですが、徐々に教師や親が本人の所作から尿意や便意が見分けられるようになると、その時の働きかけを通して、必要な時に自分でトイレへ行けるようになってきます。

 いつまでもおむつを使用していると、その状態に不都合を感じることがなくなり、自立の時期を逸してしまうことになります。失敗した時に不快感を感じさせることも必要です。

 最初は、短いインターバルでトイレに連れて行き、偶然でも成功体験をさせてたくさんほめてあげることがポイントです。成功回数が増えるにつれて、徐々にトイレに行くインターバルを長くし、タイミングをみて連れていきます。男子は立って排尿することも教えていくことが必要です。手を洗い拭くことや身じまいも、一連のトイレに行く際の動作として身につけさせたいものです。

4.衣服の着脱

 生活の中のパターンとして組み入れ、着替えをすべき時であることを明らかにすることが必要です。着替える場所や手順をきちんと決め、日によって変えたりしないようにしていくことが大切です。ボタンかけやファスナー、前後の見分けなど細かい技術が必要となりますが、子どもによくわかるように工夫をしながら、一つひとつスモールステップでクリアしていくしかありません。援助は最小限にして、自分でできるという自信を育てていきます

 このように基本的生活技術を身につき、誉められたという経験を重ねていくと、子どもは自己肯定感を高め自信を持つようになります。自信は情緒の安定につながり、自分から何かをしようという積極性にもなります。これが生活療法の3本柱の一つである「心づくり」です。「心づくり」は、日常の様々な活動を通して行われます。ききわけや自発性を育てることもその一つです。遊びも「心づくり」にとって欠かせない重要なことです。

5.遊び

子どもは、遊びを通して多くのことを学びます。遊びが幼児の生活そのものといっても過言ではありません。特に子どもが喜んで行う遊びからは多くの刺激を得ることができます。ただ、自閉症児は自分から遊びを創造したりすることが苦手なため、ワンパターンになりがちです。好きな遊びのみを行っていると、活動に広がりを持たせることができません。新しい活動に対する不安から、いつも同じ活動ばかりしていることが多いのですが、違う遊びを経験させて遊びのバリエーションを広げていくことが大切です。遊びのレパートリーが広がることで、気持ちもより安定していきます。また、順番をまもること、おもちゃを共有すること、慰め合ったり謝ったりすることなどを通して、遊びの中で社会性を身につけていくことにもなります。

6.コミュニケーション

言葉は、一朝一夕に身につくものではありません。言葉は、生活の中での体験を通して、自分と周りの世界とのつながりに気づくことから始まります。周りの世界で使用される言葉の理解が進むと、話す言葉も増えてきます。話す言葉だけに着目して、言葉の意味もわからないのに言わせたり練習したりすることは、あまり意味がありません。

 生活の中の機会をとらえて働きかけをし、コミュニケーションの便利さ・大切さに気づかせていくこと、子どもがコミュニケーションしたくなるような環境を用意することなどは大切なことです。子どもの先回りをして要求を満たしてあげると(親が子どもの代弁をすると)、コミュニケーションの必要性を子どもに感じさせることができません。あえて、子どもが要求するまで待ったり、子どもが選択する機会を多くしたりすることも大切なことです。このようにして、日常生活の中でコミュニケーションの成功体験を積み重ねていけば、情緒も目立って安定してきます。

7.知的開発

生活リズムが整い、身辺自立も進み、基礎体力もついてきたところで、学校での学習も視野に入れながら、「知的開発」の指導を徐々に行っていきます。

 その手はじめは、幼稚園の生活の中でのものに集中する指導です。黒板を使っての絵かき歌は、ほとんどの子どもが好む活動です。これは視線を黒板に集中する練習としても有効です。画用紙にあらかじめ描いておいた絵の枠内をクレヨンで塗る活動も、紙面上の枠への注目や、目と手の協応運動を促します。集中力が高まれば、能力に即したマッチングや分類の練習を加えて行き、認知能力をより高めていきます。このようにして、椅子に座って課題を行うことで徐々に小学校での学習につながるレディネススキルを身につけていくのです。

 大事なことは、今何をするべき時なのかをはっきりさせることです。1日のスケジュールや活動の始めと終わりが理解しやすいように配慮することが大切です。また、子どもの興味を利用した課題を工夫することも必要です。電車やマークなど、その子が興味のあるものを作業に取り入れていくと、子どもは意欲的に活動します。

 基本的な生活技術の習得と同様に、自分が取り組んだ活動(幼稚園では「おしごと」と呼んでいます)が、自分も納得できて、友だちや教師や保護者にも認められることで、ますます自信がつき、さらに広い世界に目が向くようになっていくのです。



 学園付属の教育センターでは、どなたでも受講できる自閉症児のための「療育プログラム」(有料)を実施しております。このプログラムは年間を通して随時行なわれています。詳しくは教育センターのホームページをご覧ください。

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