校長の独り言【37】 



著書『ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる』2002年より
第四章 学校で一番大切なのは教師集団の「和」と「連携」
○本当は、「和」は「笑」なのかもしれない
 武蔵野東学園内のすべての職員室には、創立者北原キヨの直筆の「和」という文字が額に入り掲げられている。生前北原キヨ先生の口癖は、「教育はチームワーク『和』であり、『和』なしには教育は成立しない。」であった。この「和」はまず教職員間の和であり、教職員と保護者の和を意味している。ある意味で、武蔵野東学園の教育の真髄かもしれない。聖徳太子も同じような事を言っている、「和を以て貴しと為す」(人間同士の信頼や絆が何よりも大切である)と。
 この「和」の上に本校では、①「一人の生徒の担当は全員の教師であるの精神」つまり、生徒の指導担当はクラスや学年や教科、さらに校務分掌上の分担を超越し、一人ひとりの生徒の担当はすべての教師で対応しようということである。また、②「職員室を生徒の話で一杯にしよう」つまり、生徒の細かい情報を共有しなければ、担当は全員の教師である精神を実行に移したくても何もできない。この二つのことを日々実践している学校なのである。私は、ある意味で生徒の問題で教師同士が議論になり、つかみ合うことはないとしてもそのような状況になってもかまわないと思っている。それぐらい生徒のことで絶えず真剣に考える教師集団でありたいと願っている。
 不登校の問題でよく議論になることだが、「学校に行かないのも権利」という言葉がある。確かに学校に行かないのも権利だと思うが、少なくても本校の教師集団は「学校に行くのも権利」と考え、目の前にいる生徒に相対してくれている。また、不登校生徒の保健室登校も議論になるが、本校では保健室登校は認めていない。これも中学校までと義務教育修了後の学校との違いがある。本校は義務教育修了後の高等専修学校であり、社会に直結する学校であり、かつ我々教師に、またその生徒に与えられた時間は3年しかないのである。焦っている訳ではないが、この3年間で我々の手から離れて行くと考えると、一日一日が大切であることから保健室登校というひとつのステップを踏むよりも、集団の中で適応することを第一に考えたのである。また、スクールカウンセラーの問題も本校では職員会で議論したことがなく、本校にはスクールカウンセラーはいない。その部分は教員全員で対応している。教師である以上出来得る限り教師の仕事を全うしたいという思いから、30人が一人ひとりの生徒の担任であるという本校のシステムにつながるのである。30人教員がいると、30人全員に何も話さないということはありえない。どの生徒にとっても必ず何人かは話ができる先生が存在する。あとは教員同士が問題解決のために連携することで解決をすることができるのである。
 本校でいう「和」についての一端をご理解いただけたと思うが、学校という場は、毎日が喜怒哀楽の宝庫である。この宝庫の中に身をおく教師も喜怒哀楽を絶えず体験し、時にはつらいこともある。そんなところからかどうかは分からないが、野田学園長は職員室の「笑」という話をよくされる。その「笑」の影響で本校の先生方は実に明るい、そしてその明るさが垣根なしに連携につながっていると感じている。また、その職員室の雰囲気が垣間見られるのが、毎日夕方6時前の職員室である。この時間になると学園内の教職員託児所から、教員の子どもたちが何人か職員室に帰って来る。そうすると子どもたちは職員室の中を走り回り、居合わせた先生方はかわるがわる声をかける。そんな光景を毎日見ていると本校の教師集団の心の暖かさと通い合いをつくづく感じるのである。
 また、現在本校には私を含め30人の教員がいるが、何と30人中6名が独身、24名が既婚者である。しかもその中私を含め16人が職場結婚なのだ。この16人という数は一般企業だと当然考えられない数であり、他の私立学校と比較しても考えられない驚異的な数であると思う。さらに、その職場結婚をした教員の子どもたちの多くも、法人内の東幼稚園、東小学校、東中学校に在籍している。なぜこんなに職場結婚が多いのかというと、創立者の北原キヨ先生が東小学校創立当初から職場結婚を奨励していたからである。創立期の苦難を乗り越えるには、まず教職員の家族の支援が必要であったからだと理解している。そして、北原キヨ先生は「学園の発展の中で教職員もまたその家族も幸せになって欲しい」と常日頃からおっしゃっていたことを鮮明に覚えている。私事であるが、私の妻も現在東幼稚園の教員であり、2人の息子たちも、幼稚園から中学校まで東学園でお世話になり、今では大学2年生と高校2年生になる。北原キヨ先生のおっしゃる通り、私は学園の発展の中で幸せになれたと思っている。故に、本校の教員の付き合いは、ある意味で仕事を越えた関係が知らず知らずの間に出来上がっている。生徒の指導で急に学校に宿泊しなければならない時、夜遅くまで生徒指導や補習をしなければいけない時、そんな時に家族の理解がある故に生徒指導に集中できるのもお解りいただけると思う。
 今の私学の状況から、ある先輩の先生が常々おっしゃっている言葉がある。「今の私学は教職員すべてが運命共同体でなければいけない」。本校はすでに運命共同体になっているのかもしれない。
 本当に本校の先生方は、「和」と「笑」を大切にしてくれると同時に、自ら教師という仕事を楽しんでいてくれている。

校長  情報ID 14913 番  掲載日時 09/26/2006 Tue, 15:18