校長の独り言【488】 



 私の拙著「ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる」(2002年9月発行)の中にこのような文章が残っています。

第四章 学校で一番大切なのは教師集団の「和」と「連携」
○芸能人は「歯」が命、教師は「生徒」が命の精神
 絶えず卒業生が遊びに来る学校である。今日も3人の卒業生が遊びに来ている。2人はもう23歳になる女子で、今日仕事が休みで昨晩卒業生記念ビデオを一緒に見ていて、急に学校に行きたくなったとのことであった。話をしたところ仕事の方も順調のようであった。もう1人は20才の男子で、昨年転職の相談にきていたのだが、今日も何か相談があるようで担任であった先生を待っている。また、毎週木曜日必ず遊びに来て、野球部の練習に参加している20才の自閉児、1週間2度程度5時すぎに職場から直行し仕事の報告をする36才になる自閉児、さらに雨の日に突然現れる建設業の30才の男子と、この他にも実にたくさんの卒業生が本当に良く遊びに来る。卒業生が遊びに誰も来ない週はないくらいである。
 
 この様に卒業後も学校を懐かしみ遊びにきてくれる事は、我々本校の教員にとって大変うれしいことである。しかし、健常児であれば、我々が在校生の指導をしていても適当にいろいろな先生と状況判断をしながら会話を楽しんでいるが、こと自閉児だと黙って職員室に座っていることが多くなりがちな状況があった。そこで、在校生のいる時には充分に卒業後した自閉児とかかわってあげられないことから、我々の休みを利用してその機会が出来ないだろうかということになり、第1期生が卒業してから2年後の1991年(平成3年)より、私の音頭取りで卒業した自閉児のみを対象としたスキー旅行を企画したのである。幸いスキーに関しては、東小学校の3年生の時から本校を卒業するまでの間、毎年学校行事として経験していたので技術的にも問題はなかった。この11年間に実施出来なかった年もあるが、いままでに9回の卒業生のスキー旅行を実施した。参加した卒業生はのべ301名になる。当然音頭取りの私一人では対応出来ないので、先生方にボランティアをお願いしたところ、先生方も私の主旨をすぐに理解してくれ、休みにもかかわらず積極的にボランティアに応じてくれ、スキー旅行を通して卒業生との交流を楽しんでくれていた。そのボランティアの先生方ものべ102人にのぼる。当然教師も一人の労働者であり、当然休日の権利はある訳だが、このようにして自分の休日を卒業生のために時間を提供してくれる先生方が本校にはたくさんいる事は、私の一番の誇りである。
 
 さらに、ボランティアであるので当然無償であるが、無償の上にさらに参加費をボランティアでありながら卒業生と同様にいただいているものもある。これは、1998年(平成10年)の12月21日から25日に実施した自閉児親子グアム旅行である。このグアム旅行は、卒業生の保護者の方々から、「どうしても障害のある子であると、なかなか一般のツアーに入り海外旅行を楽しむことが出来ないので、先生の方で何か企画していただけないか」と言う声から実施したものである。37人の卒業生とその保護者の方々と13人の教員とその家族で合計50人のツアーが実現した。その際参加された方々より、「こんなに楽しい旅行はなかった、次回もよろしくお願いします。」と言われたことから、懲りずに海外旅行の第2団ハワイ旅行を2001年(平成13年)の12月21日から26日までの4泊6日で企画した。その年アメリカで多発テロがあり、アメリカへの旅行を控える方々が多くいる現状の中、私も今回のハワイ旅行の中止を考えたが、保護者の方々から「もし万が一テロに遭遇して死ぬようなことがあっても、私たちはこの子といっしょに死ねるのなら本望です。ただ、先生もいっしょに死ぬことになるので、その点だけが申し訳ない。」という話をいただいた。私はこの一言で実施を決断した。テロのことが決して頭から離れることはなかったが、実に楽しい旅行となった。この旅行に参加してくれた先生方は、当然10数万円の費用を払ってのボランティアであった。
 
 どうでしょうか、このように勤務外のことにこんなに積極的に、こんなにたくさん、またお金まで払って協力してくれるのは、本当に生徒を愛しているからこそできる事ではないでしょうか。
 このボランティアだけでなく、すべてにおいて卒業生、在校生を問わず生徒を第一に考えてくれる先生方を本当に素晴らしいと思う。

 あれから12年。今も何ひとつ変わっていません。本当に、自慢できる先生方です。

校長  情報ID 62371 番  掲載日時 11/27/2014 Thu, 10:42