「心の声」をキャッチ 



 こどもに対してということに限らず、相手の言動を評価する場面というのは、日常生活においてよくあることですね。一般的には、ほめられる側(あなた)を主体にして、「よく頑張ったね」「素晴らしいよ」「立派だね」などと、その言動に対しての評価を言葉で伝えるものです。逆にほめる側(私)を主体にした場合は、自分の中に沸き起こった感情が「嬉しいな」「感激したよ」「感心したよ」というストレートな言葉になって出てきます。

 この二つを比較してみると、前者のように高い評価を受けて褒められるのは嬉しいことですが、後者のように自分の言動が相手の心を動かし、「認められた」「分かってもらえた」「共感してもらえた」ということが言葉で伝わってきた方が、より嬉しく感じられるのではないでしょうか。

 とある学校生活が乱れていた児童に対して、なかなか思うような指導ができずにいた教師を例に挙げてみましょう。叱ろうが、怒鳴ろうが、ほめようが、全く効果が上がりません。学習意欲も全くと言っていいほどなく、宿題をしてこないなどというのは言うに及ばず、大声を出して授業を妨害するなど、反抗することが日常茶飯事でした。
 
 困り果てた教師は注意することを止め、言葉がけの方法を変えました。「宿題をしてこないね。」「大きな声を出したね。」「忘れ物をしたね。」というように、淡々と事実だけを3か月にわたって伝え続けたのだそうです。

 しばらくして、「今日は忘れ物をしなかったね。先生は嬉しいよ。」「落し物を届けてくれてありがとう。」というような素直な思いを付け加えてみたところ、徐々に行動に変化が表れはじめました。そして、「先生、ぼくはみんなにも先生にもかまってほしかったんです。家でも、おまえは駄目なやつだ、と言われていたから……。」と、涙ぐみながら心の声を伝えてきたのです。その児童は、心を開いてくれました。

 こどもにも大人にも、叱咤激励の意味を込めて、厳しい意見を伝えることもあるでしょう。けれども、相手の心のポジションを敏感に察知して、「事実」と「素直な思い」を伝えてみると、それまでとは違う相手の心の変化が生まれて来るかもしれませんね。

木村 修二  情報ID 74600 番  掲載日時 05/31/2017 Wed, 11:38