武蔵野東学園広報 第14号 【オンライン版】    平成15年(2003年)12月17日発行

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教育研究所

  日本自閉症スペクトラム学会
   研究大会・研修会開催される

 東だより第13号でお知らせしましたとおり、平成15年8月9・10日に「日本自閉症スペクトラム学会第2回研究大会」が武蔵野東学園本館にて開催されました。台風で心配しましたが、昨年を上回る約250名の参加がありました。それぞれの会場で、日頃の研究成果を多くの方々が発表され、熱のこもった討論が展開されました。研究所の所員もポスター発表・自主シンポジウムに参加しよい刺激を受けましたし、事務局として運営できたことで研究の最前線を知るよい機会になりました。また、7月にNHKスペシャルが放送された後ということもあり、各先生方より学園の教育に対する高い関心と評価もいただきました。
 11月22・23日には、学会の第
1回研修会が、学園の本館講堂にて開催されました。この研修会は、『自閉症スペクトラムのいま』というテーマで、医療・福祉・教育・行政・法曹のそれぞれの立場の第一線で活躍されている方が講演をしました。参加者から様々な分野の幅広い知識が得られたという声が多く聴かれました。これからも教育研究所ではこのような会の運営を通して保護者の方々に情報を提供できたらと考えています。

 療育プログラム

 「療育プログラム」では、子どもたちへの療育と保護者に対する講義の2つのプログラムを同時に実施しています。
  療育内容としては、「着替え」 「食事」 「排泄」といった生活習慣に関するものから、読み聞かせや絵描き歌などを通じて行う学習態勢の形成、「のり」「はさみ」「絵の具」を用いて行う絵画造形活動などが中心となっています。また、保護者には、「生活習慣」 「困った行動」 「学習」 「コミュニケーション」など、身近なテーマを取り上げ、実践的な内容を中心に講義をしています。
 5日間の短期間ながら、子どもたちと密接に関われることもあって予想をこえた成長を見せる子どもも少なくありません。また、保護者どうしもうち解け、日頃の悩みを相談しあうような雰囲気に発展していくことも多く、参加者にとっても実施している研究所の所員にとっても充実した5日間となっています。
 今年度受講された保護者の方からは、「今まで『今日は楽しかった?』と聞くまで『楽しかった』と言わなかった子が自分から毎日『楽しかった』と言い出したことに驚きを感じた」 「給食で今まで食べなかったものを食べたことが自信になったようで家での食事でも今まで食べたことのないものを食べており、姉が『すごいね』と感動していました」 「講習内容が実に具体的で背景にある先生方の実体験が感じられ、今まで受けたどの診察や療育相談よりもスーっと腑に落ちました」などの感想が寄せられています。

 今年度は希望者多数のため、残念ながら全ての希望者をお受けできませんでした。また、継続してプログラムの受講を希望される方も毎年数多くでています。教育研究所ではそうした状況を考え、実施期間や回数なども含めて今後のプログラムのあり方を検討し始めています。

 「心の理論」

 心の理論」(Theory of Mind)とは、他の人の考えや気持ちを理解することをいいます。私たちは、ごく自然に他人の心を推し量って生活しています。しかし、どのようなメカニズムでいつごろできるようになったのかと聞かれると結構答えるのはむずかしいものです。例えば、今日お母さんは機嫌が悪そうだから近づかないでいようと考えたり、誕生日プレゼントをもらって、気に入らなくても「欲しかった」と言ったり。このような他者の心を読むことが自閉症の子どもたちに欠けているのではないかと言われています。
 これを調べるために考え出されたのが誤った信念課題というもので、「サリーアン課題」が有名です。「サリーがボールをかごに入れて出ていきます。サリーの留守中にアンがそのボールを、かごから箱の中に入れ替えて立ち去ります。またボールで遊ぼうと思って戻ってきたサリーは、どこをさがすでしょう?」という課題です。
 通常は4~6才でわかるようになり、この時期がひとつの大きな節目となります。また、時を同じくして嘘もつけるようになってきます。自閉症のお子さんの場合はこの課題をクリアできる年齢が高くなったり、困難であったりするようです。この「心の理論」の獲得が対人関係やコミュニケーションに影響しているのではないかといわれています。
 他の人の考えや気持ちを理解するためには、まず自分の気持ちを理解し言語化できることが必要です。そのためには日々の体験の中で、根気よく子どもの気持ちや考えに共感し、それを言葉にしていくことが大切です。例えば、兄弟げんかをしてしまったら「たたかれて痛かったね。嫌だったね」と共感し「たたかれた○○も痛くて嫌だったろうね」などと、他の人の気持ちも考えるように促すとよいかもしれません。日常生活の中での体験は、心の理論を獲得する教材の宝庫とも言えます。 (大久保道子)

 

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