学園長 野田 彰
年度末になると毎年のことながら、月日の経過のはやさに驚くとともに、今年も一日一日を精いっぱい努力してきたとの思いがトータルとして脳裏をよぎります。
細かい点に立ち入れば反省することもありますが、ここでは、学園にとって11年度はどんな年であったか、また各園校・各部署ではどんなことに努力しどんな業績が得られたかのいくつかをまとめて報告し、併せて次年度への踏み台になればと考えています。
今年度は、1900年代から2000年代になる暦の上での大きな節目ということで、過去百年を振りかえったり、これからの夢を描いたりすることが各方面で行われました。教育界も例外でなく、教育の諸問題を時代の流れに投影して論議し検討されてきました。そうしたものを背景にして文部省の教育白書(11・12・7)が出されたのです。
教育白書には、暴力行為やいじめ・不登校・問題行動・心の教育・教育改革などが総括的に述べられています。また、21世紀に向けての教育改革の具体的な案や方策が次々に発表されたのも今年度でした。
学園は、このような趨勢の中にあって、世間で指摘され問題となっていることがらに細心の注意を払いつつ、必要と思われる対策を講じてきました。また、困難な時代に生きぬくために学園中・長期総合整備計画を見直し加除訂正して備えてきました。その中・長期総合整備計画の大要は次の通りです。
この計画の基本的な方向である教育の質的向上・一貫教育の強化・各園校の自立促進は従来のままで踏襲しました。教育の強化では、方針やその強調点を明確にし、さらに各園校の課題や重点に敷衍展開し、それらを可能にする教育条件や組織・研究・外部団体との協調などについても示しています。また、学園運営上の機構や法的整備・財政面の見通し、海外関係の調整やルール化に関してもとりあげています。
このようにして少子化時代や教育改革時代の現実の問題に対応しつつ、その先の学園の基盤固めという気の長い取り組みにも遺憾のないよう努力してきた1年間でした。
以上のことは、スタッフ運営に入った平成元年度、ゆるやかな構造的変化前進をめざした2年度、それに続く中・長期展望および計画(3年度~)、POST30thの構想(7年度~)、学園中・長期総合整備計画(9年度~)という発展的な流れの中に形成されてきたものです。
11年度の教育方針とその強調点は、従来のものをほぼ踏襲して「・・・の反省を生かして諸問題の解決に努めるとともに、変化の激しい世に対応するだけでなく次の時代を洞察して、一人ひとりの子どもの個性を尊重し天分を伸ばし、心豊かで未来にたくましく生きる子どもを育てる。」と示しました。そしてその強調点として次の5項目を掲げました。
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個性を尊重した人間の教育、とくに心の教育に力を注ぐ
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教育の質的向上をめざし、工夫や新しい試みを展開する
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家庭の教育力や地域社会の教育機能を再認識し、積極的に関与していく。
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時代にふれて時代を見る目を養うとともに、社会性や国際性を培う
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(さらに治療クラスでは)とくに自立・交友・会話・体験などの拡充に努める
いうまでもなく、ここで示している方針や強調点は、幼小中高がそれぞれの重点を考えるときの視点になるものです。
幼稚園の11年度は、少子化対策や母親の社会進出への対策などで行政面が変化し始めたために、その対応にも配慮せねばならなくなった年度ということができます。そのような時であるだけに4月の新入園児が206名にもなったことは、私どもを力づけ、日頃の保育への自信を一層確かなものにしてくれました。
11年度の教育の重点は「豊かな心を育てる」とし、今までの「遊びの充実」「豊かなふれあい」を包含したものとして取り組みました。「心の教育」は学園が以前から強調している項目であり、幼児期だからこそより大切だとの認識にもとづいています。本年力を入れた感性をゆさぶる読み聞かせの指導も、日々の保育における園訓の実践も、すべて幼児の心を育てていると考えて実践してきました。
保護者への情報提供や保護者の会合などは一段と強化し、保護者の方々の協力も活発化した一年でした。預かり保育の運営が世のニーズに応えて好評を得たことも嬉しいことでした。
なお9月に実施した25年ぶりの公開保育では、七五園の参観者より感想文をいただき、貴重な勉強となっただけでなく、面目もほどこしました。これを機に保育カリキュラムを整理したり環境を再点検できたことも大きな収穫でした。
小学校の11年度は、「改革・改善の年」であったということができます。完全5日制の実施と土曜自由登校日の設定、年間計画の大幅な改善と校外学習の充実など。カリキュラム面では1・2年の読書を専科授業にしたり3年以上に総合の時間を導入、バレエをダンスに改称し女子の新体操を廃止、友愛会は4年以上全員参加としたりボランティア部会や理科部会の新設など、多方面にわたる改善は、子どもだけでなく教員をも活気づけました。
11年度の重点は、やがて訪れる21世紀を念頭に「表現」と「環境」にしました。自己を表現する力とは単に話すだけでなく、聞き取る・筋道を考えるなどの総合的な力であっていろいろな機会での経験から身につくものですが、今年2回開催した全校ディベート大会は有効な刺激になったと思います。「環境」は前年度からの重点で、ゴミ問題や自然環境保護・地球温暖化・リサイクルなど幅広い取り組みとなりました。治療クラスに掲げた「一人通学」という重点は見事に達成されて全員が通学距離をのばすことができたのは嬉しいことでした。
今年はまた、外部から注目され評価されることの多い年でもありました。中でもミニ水田での稲作はNHK「未来派宣言」でとりあげられ、この番組が中央児童福祉審議会推薦文化財に指定されたことは大ヒットでした。その他スポーツテストの結果・消防の絵のコンクール・国際算数数学能力検定・サイエンスグランプリでの個人賞や学校賞など。これらは子どもの誇りと自信になったと思われます。そうした中に、11月のウイルス性嘔吐・下痢症による集団欠席は苦い経験でしたが、学校にとっては得難い勉強となりました。
中学校の11年度は、学校の自立と活性化がさらに進み、そのことが生徒の自主的な活動にも色濃く反映しました。また、武蔵野東独特の小中9か年一貫教育体制への試みも一層具体化し、小中教員の合同研究会をはじめ、小学生を中学校に
迎え入れての学習体験や、中学校教員が小学校に出向いての授業などが度々行われました。中学校を公開して自由に見学できる日を数回設けて外部の小学生にも呼びかけたりしましたが、これは少子化対策の一環でもありました。
本年度の重点は昨年に続いて「環境教育」とし、今までの蓄積を生かして生活に密着した実践的な取り組みを重視しました。この実践は日々の学校生活で、行事で、校外学習で、ニュースで、国際的な広がりの中で継続的に行われ、その結果はスピーチ大会で発表しました。
本年度の大きなことの一つに完全五日制の実施があります。それに伴って土曜日に自由講座を開設しましたが、半日講座・時間講座ともに多彩で生徒の好評を博しています。また、年度初めにコンピューター27台が入り3階にコンピューター室ができて一同大喜びしました。
行事等に見られる生徒の自主的な活動は目を見張るものがあり、その雰囲気の中での部活の練習は各部のすばらしい成果を生み出しました。中でもダンス部の全国中・高コンクールでの五年連続七回目の優勝は特筆に価します。なお、毎日カップ「中学生体力つくり」コンテストにおいて、3099校より選ばれた40校の中に入り、特別賞を受賞しましたが、これは初めてのことで、これも特筆すべき栄誉です。
高等専修学校の11年度の重点は、昨年に引き続いて「進路指導の充実」と「自己開示と表現力の強化」です。一貫教育の総仕上げであり社会に直結している高等専修学校では、この二つはきわめて重要です。
これらは教えればよいというものではなく、日々の学習や行事の中などで、自己を鍛え、努力し、決断し、挑戦することによって身に備わるものです。そのような場と機会は今年も常に用意して指導してきました。今年度初めて実施した全生徒による友愛会役員選挙制は、そうした意図にもとづいたものです。また、夏の全国高等専修学校体育大会における軟式野球部(優勝)・卓球部・女子ソフトボール部・陸上部・開会式でのウインドアンサンブルによる演奏などの活躍は、人間の幅と自信をつけるだけでなく、自己を知るよい機会ともなりました。
私たちは教育の質の向上のために常に「魅力ある学校づくり・授業づくり」に努力していますが、それをテーマに、全国高等専修学校協会他3団体の後援による本校主催第3回公開授業・研究会を7月3日に開催しました。都内の中学校よりの参加者も含めて90名が熱心に参観し意見を交されました。この公開授業で私たちが得たものは沢山ありました。この企画は、授業を研究の対象にしようという提唱でもあるわけで、学校仲間に投げかけた一石の意義の大きさを感じ取ってくれたにちがいありません。
学習・授業・研究の面から見た11年度は、学園全体を総括して堅実な前進を続けてきたと断言できます。
子どもの学習や活動を見て感じることは、明るさや積極性、自分たちでやろうとする主体的な動きなど、年々はっきり見えてきています。自主学習・自主練習・立候補・スピーチ・ボランティアなど、どれにも明るさ・前向き・頑張り・素直さといった言葉が浮かんできます。
このような子どもの動きを手伝い、求めに応じていくのが教師の指導・授業であるわけですが、それをふりかえってみると、幼小中高それぞれに、指導内容を厳選し、それをどう組織化するかに知恵をしぼり、集団や個別指導の方法に工夫をこらしたりして、それなりの前進が見られました。創造的・総合的な試みやディベートの考え方の導入などはその一例です。
このような実践をまとめた報告書や論文、また研究を実践に移した記録などは、研究紀要No.8や11年度学園指導研究活動報告書にまとめられ、2月25日の全職員半日研修会(年間7回)で発表しました。各園校の研究活動も学園縦割りの研究組織の活動も寸暇を惜しんで頑張った一年でした。常設の武蔵野東教育研究所は、たくさんの仕事をこなしながら新しい参考資料を職員に配布、そのほかにもボストンやウルグアイ、中南米、韓国等の事項にも携わりご苦労な一年間でした。
武蔵野東学園のこの一年間を、教育の荒れ・世紀末的世相・少子化・私学の存続など教育に関する諸問題の中に置いて見つめふりかえるとき、笑顔をモットーとする後援会の皆さんに支えられてとにかく乗り切った一年間であったという感を強くいだきます。
そしてまた、今年度になって自立した「連合後援会だより」や「東だより」をはじめ、活発化してきた各園各校通信や学年だより、その他のこまやかな連絡諸手法がもたらした学園と家庭とのつながりの太さを感じた一年間でもありました。
いま年度末を迎えて、このつながりに甘えることなく、本年度の成功も失敗も無駄にすることなく、次の12年度の強固な礎にしたいものと、静かに考えています。
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◎幼稚園 2月5日(土)