十二年度は、年越し・世紀越え・千年紀元年という三つの節目を併せもった年度で、いつもの年度よりも歴史的な視座から深くみつめる年度でした。過去五十年百年をふりかえれば、発達・発展・繁栄や戦争・対立・紛争とか、平和・人権・人口増加や公害・自然破壊とか等々、これらの功罪は私たちに大きな影響を与えてきました。
我が国の一年間をふりかえってみましても、行政改革とか財政や景気対策、金融や産業の再編、教育改革などと重要課題が並び、世紀末的現象かと思われるような災害や事故・事件も続発しました。国際化の進展はボーダーレス時代さながらを思わせ、パソコン・インターネット・携帯電話などの急激な普及にも驚かされた一年でした。
教育の面では、教育改革に関する答申が前年度に続いて次々に出されて、改革の方向や内容が解説され論議されました。その主なものは、教育内容三割削減とか、ゆとり、基礎基本、総合的な学習など相当踏みこんだものでした。習熟度別授業や二十人授業も可能にするとか、地方教育行政や学校運営の主体性についても思い切った案が示されていました。
心の教育や道徳教育などの進展は見られましたが、いじめ・不登校・暴力・学級崩壊などの諸問題は依然として跡を断たず、新しく少年の凶悪犯罪が続発し「十七才の闇」という言葉が生まれたり、少年法改正という動きが強まったりしました。幼児虐待の度々の報道も今年でした。こうした社会背景もあって、教育改革の思い切った方策が望まれたり、教育基本法の見直しや奉仕活動の導入が論議されるようにもなりました。
学園は、このような趨勢の中にあって、時代の流れや社会で問題になっていることがらに細心の注意を払いつつ、二十一世紀への一層の飛躍をめざして努力してきました。
この飛躍をめざしての努力は、継続的計画的なもので多岐にわたっています。努力した沢山の項目は平成九年度に策定した「武蔵野東学園中・長期総合整備計画」から導き出されたものです。この総合整備計画は、少子化時代に生きぬくための方策であり、学園(幼小中高)の教育改革を方向づけるものです。新しい年度に対応するように、毎年見直し加除訂正して今日に至っています。この総合整備計画の大要は次の通りです。
①基本的な方向として、教育の質的向上のための条件整備・幼小中高一貫教育強化と各園校の自立の促進・新しい視点に立った教育の模索について、を掲げ②教育方針では、「個性を尊重した人間の教育」を、個の教育・心の教育・基礎基本・時代の子・対保護者の五項目にわけて説明し、さらに教育方針の強調点として六項目(省略)を示しています。
続いて(紙面の関係で簡略化して示すと)、③一貫教育上の各園校の課題、④各園校の指導の重点、と続き、さらに⑤教育条件の整備の項目、⑥教育を前進させる組織整備の項目、⑦学校法人の運営等に関する項目、などとなります。
以上のすべてのことがらについては、全職員が理解するように機会を設けたり、保護者の方々には、教育方針や指導の重点を中心に理解していただくために、三月下旬の教育方針説明会で説明したり、冊子を配布したりしています。
総合整備計画があるのであらゆる面の対策が満遍なくとれるわけですが、これが平成九年度に初めてできたものではなく長年の積み上げによってできたものです。ふりかえってみますとことの始まりはスタッフ運営に入った平成元年度です。ゆるやかな構造的変化前進をめざした二年度、それに続く中・長期展望および計画(三年度~)、創立三十周年を迎えての将来展望(六年度)、POST
30thの構想(七年度~)と続き、その流れを受けて学園中・長期総合整備計画としてまとめたのが平成九年度ということになるのです。
幼小中高を広く見渡す立場にある学園は、大変多岐にわたる仕事を総合整備計画に基づいて処理しています。たとえば、今まで懸案であった中学校校庭の改修や小学校のすべてのトイレの改修を、今年の五月連休や夏休みに実施したのはその例です。災害による緊急の場合は別として、とくに金額の張るものは計画し予算化し妥当な見積もりで快適な教育環境をと心掛けています。
また、少子化時代への対応として、武蔵野東の教育や存在をできるだけ多くの人々に知ってもらおうと、今年も新しいPRを積極的に展開しました。大きな校名板(看板)の掲示・ホームページの大改訂などはその一例です。
次年度の総合整備計画の策定も学園の大切な仕事ですが、すでに各方面の反省・要望やかねてからの懸案などを総合して、十三年度を迎える態勢は完了しています。
幼稚園の十二年度は、時代の流れを身近に感じる年でもありました。少子化がさらに進むだけでなく、母親の社会進出の増加により、保育園への需要が大きくなり、幼稚園に対しても保育園のように子どもをもっと長時間預かってもらえないかという声が社会の話題にもなりました。このような声に対し、幼稚園本来の存在意義を大切にしながら、どのような家庭支援ができるかを考える時代を迎えたのです。
東幼稚園は有り難いことに少子化時代を感じさせない応募者があり、年少組では一クラス増のスタートとなりました。また、家庭のニーズに応えて預かり保育(ひがしっ子クラブ)の日数や時間の拡大を図り、自閉の子の預かり保育にも配慮するようにしました。これは、前記の時代の流れを考えながら、少しでも家庭に協力しようとしている一端です。
十二年度の指導の重点は、去年に引き続いて「豊かな心を育てる」とし、その方法として「温かく気もちのよい挨拶の励行」とか「本の読み聞かせ」などの実践に今まで以上の努力を重ねてきました。
保護者への教育情報の提供については、幼児教育学習会の開催や幼稚園だより・クラスだよりの充実、保護者会、参観日の活用などで積極的に取り組みました。また保護者有志グループの後援活動は、手造り広報紙をはじめガーデニングクラブ・ソーイングクラブ・図書クラブなどによって繰りひろげられ、子どもと一緒に幼稚園生活を楽しむ雰囲気は、幼稚園全体を活気づけ、多くの参観者に感動を与えることにもなりました。
意欲的に取り組んだ東小学校との連携・交流や、東中学三年生との交流による園児の喜びは予想以上のものがあり、第五小学校の子どもたちの来園交流も度々で、これからの教育を示唆していると思われました。
小学校の十二年度は、いろいろなことに取り組み予想以上の成果に喜びを感じた年度ということができます。
指導の重点は昨年度と同様に「表現力をつける」「環境に働きかける」とし、各学年毎の重点の指導体系にもとづき子どもの発達に即した指導を展開しました。
「表現」の指導では、教員研修の成果が日記や作文指導に直接役立ち、私どもにとっても貴重な経験となりました。また「環境」では、省エネ共和国宣言や電力使用量表示器で節電(省エネ)への意識を高めたりしました。東エコクラブが武蔵野市から表彰されたことは重点に対する評価でもあると考えられ、子どもたちと共に喜びました。
教員研修に関しては一部前述しましたが、本年度初めて東京私立初等学校協会の研修実務実習校になったので、多くの講師先生に度々来校いただいて研修することができました。その実りには大きなものがあり、子どもに還元できる貴重な収穫となりました。
混合教育については毎年工夫したり新しい試みを導入したりしていますが、今年度の体育祭では特に混合に重点をおき今までにない成果が見られました。混合競技ということばが定着しただけでなく、お互いに深まった友愛の心はその後の生活にまで発展し、好ましい状況をつくり出しました。
以前から配慮していた近隣との交際は、今年は大きく踏み込んで「地域との共生」というテーマを掲げ、学園祭には地元商店の方々による模擬店をお願いしたりなどして、一層親密の度を深めました。
小中一貫教育の試みについては昨年度より一段と進み、中学校の情報の掲示、児童生徒の交流、中学校教員が六年生に授業、小中合同の職員研究会などが行われ、一定の成果と今後の見通しが得られたことは嬉しいことでした。
中学校の十二年度の指導の重点は、過去二年間継続していた「環境教育」から一歩進めて「将来観を育てる」にしました。
この重点には、多感な中学時代に、自己を発見したり社会を知ったり将来への夢を描いたりして、未熟でも中学生らしい生き生きとした考え方、つまり、人生観や職業観や生き方の未来像を鍛えようとするものです。このような考え方にもとづいていろいろなことを試みていますが、外部講師としてオリンピックメダリストや地方裁判所の判事補の方にお願いしたのはその一例です。
また、一貫教育の立場から幼小中高との連携や交流の試みを通して、生徒たちが人間的なぬくもりを感得したことは嬉しいことでした。中でも、小中九か年一貫教育への試みでは、児童を迎え入れての公開体験講座や、小学校に出向いての授業、小中合同の職員研究会などは意義深いものがありました。
本年度の新しい企画である希望生徒によるボストン学習(三月下旬)では、ボストン東スクールやネイティックの公立中学の生徒およびその家庭との交流が計画されていて、異文化の地における人間的接触がもたらすものは、前記の将来観を育てる面でも測りしれない効果があるものと期待されています。
その他に、生徒の自主的な活動や、各種コンクール・対外試合などの成績、毎日カップ中学校体力づくりコンテストの受賞(再)、とくに全国中学高等学校ダンスコンクールでの六年連続八回目の優勝など、どれも十二年度の金字塔として忘れ難いものとなりました。
高等専修学校の十二年度は、今年も緊張と充実と理想追求の一年でした。それは言うまでもなく高等専修学校は学園の一貫教育の最終の場であり、多くの卒業生が社会に巣立つための仕上げの場でもあるからです。そのようなところからも、「進路指導の充実」と「自己開示と表現力の強化」が継続して重点に設定されていることが納得できると思います。
この重点は年間の指導計画や行事計画に組織的に組み込まれていて、生徒の行動や態度に変容をもたらしていることは、一年生の一年間の成長や、一年生と三年生の比較からも容易に気づくことです。
三年間で身につけた団結力や持久力や瞬発力などはスポーツを通して端的に見られるものですが、球技大会やスポーツ大会、全国高等専修学校体育大会などで遺憾なく発揮されて、優勝や高順位の成績を納めました。特記すべきことはラグビー部が創部されその後援会も発足したことです。ラグビー部の存在は、人間教育に寄与するだけでなく、全生徒の士気を鼓舞する上からも今後の成長が期待されています。
生徒は学校だけに閉じることなく、何かにつけて中小幼の後輩に気を配ってくれていることは有り難いことです。学園全体の連合友愛会をリードしたり、盆おどりなどでは奉仕的活動を進んで引き受けたり、時には手伝いの仕事にたずさわったりなど、身につけた自主活動がいろいろな形で発揮している様子は頼もしい限りです。今年も他校の生徒との交流が何回もありましたが、豊富な体験を通して自然な形で重点の「自己開示と表現力の強化」が行われていると考えられます。
十二年度は、一言でいえば、大変な年であったといえます。世の出来事にも教育界の動きにも、心を据えて対応しなければならない荒波を感じる年でした。 そうした中に在って武蔵野東学園は、がっちり組んだスクラムで凌ぎ、伝統の力で押し返し、みんなの情熱でどこにもないものを創ってきました。この一年間の反省の記が教育白書にかわるかどうかは別として、学園と家庭をつなぐ信頼のきづなに役立てば幸いだと思っています。
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◎幼稚園 1月20日(土)(府中の森芸術劇場どりーむホール)
開会式には、この一年間いろいろな行事を見守ってくれたうさぎさんが登場して楽しい発表会の幕が開きました。子どもたちは一人一人が主役です。幼稚園のホールとは違う、照明の当たる大きな舞台、大勢のお客さんの前でも練習の成果を発揮して堂々と演奏、演技できました。一生懸命歌った歌や、先生や友達と共に作り上げた演技は、小さな胸にもきっと忘れることのできない思い出になったことでしょう。
◎小学校・中学校 2月17日(土)(杉並 普門館)
小学校・中学校、2校だけの発表会となって2年目。児童・生徒が作り上げる行事という面を今年も大切にし、中学生の司会・アナウンスによる進行も定着しました。どのプログラムからも、児童・生徒の真剣さ、はつらつとした様子が窺え、保護者の皆様には、舞台上のどの子も同じ学園の子、自分の子と同じような気持ちでたくさんの拍手を送られたのではないでしょうか。子どもたちは、今年も発表会を経て、またひとつ大きな自信を手に入れたことと思います。