サブプライムローン問題に端を発した金融危機が、世界全体の景気に影を落としています。そしてそれが日本人一人一人の生活にも影響を及ぼし始めました。しかもそれが、私学経営にも影響を与えています。いくつかの私立学校が資金運用に失敗し、大きな損失を出したというのです。
私学経営では、毎年何億円もの設備の維持管理費、補修費、新設費用が必要になりますから、どの学校でもそれに備えて資金を手元にプールしています。そして当学園を含む健全経営を行っている私立学校では、それを金利は安くても元本が保証されている銀行預金に預けています。しかし、少しでも運用益を多くしたいと考え、元本保証のない金融商品に手元準備金を投資に回す学校があります。サブプライムローン問題は、そうした私立学校を直撃したのです。同じ世界に住む者として本当に残念でなりません。
少子化時代の今日、学園財政を豊かにしたいと考える私学経営者の気持ちはわかりますが、やはりこれは邪道です。学校にプールされているお金は、保護者のみなさんからお預かりしたものであり、私立学校は税金が免除されているのですから、それらは教育サービスの向上にのみ使われるべきものです。当学園は創立以来この考え方をかたくなに守り続け、元本保証のない金融商品には一切手を出してきませんでした。学園債の形でお預かりしているお金が、金融商品投資に回されることも一切ありません。そしてこれからもその考えを変えることはありません。
私は昔銀行に勤務し、お金にまつわるさまざまな人間模様を見てきました。その体験をもとに、様々な雑誌や新聞で連載し、さらにこれまで金融関係で四冊の本を出版して、「お金の持つ怖さ」を読者に訴えてきました。その主張するところは、「金を儲けたいという欲望が身を滅ぼす」そして、「金がないのは不幸だが、金がありすぎるのはもっと不幸だ」です。「お金」は人の生活を豊かにする半面、人の心を貧しくする側面もあるということです。一部の私立学校が投資に失敗したのは、お金を儲けたいと考えたから、そして手元にお金がありすぎたからと言えましょう。
かつての日本の小学校には、「子ども銀行」があり、小さなころから勤倹貯蓄の大切さを教えました。日本全体が貧しかったころのことです。その後日本が豊かになるにつれ、勤倹貯蓄(生活を質素にする工夫をして、お金をためることが大切)から、マネービル(金儲けの種を探し、金を増やす工夫をすることが賢い)と考える社会となりました。
あるアメリカ人金融評論家と会った時、「子ども銀行」の話をしたところ、びっくりした顔をして、「アメリカの初中等教育には『お金に関する教育』がないことに、問題意識を持っていたのですが」と言いました。しかし知らないうちに日本もそうなってしまったのです。
先月多摩信用金庫が主催するビジネスコンテストで、本学園は企業及び団体160社が応募する中で、最優秀経営賞をいただくことができました。本学園の地道な経営、自閉症児教育を軸とした社会への貢献が、審査員の皆様に評価されたと伺いました。
これからも「地道、堅実」をひたすら守ってゆきたいと存じますので、保護者の皆様の変わらぬご支援をよろしくお願いします。
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